特別対談〈なりきり玩具〉にみる、感動を生み出すモノづくり

井上 光隆

バンダイのモノづくりに興味津々の大学生・岡本沙紀さんと、
〈なりきり玩具〉の企画担当者との特別対談が実現!
〈なりきり玩具〉の魅力と、バンダイのモノづくりの秘密について語り合います。

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〈なりきり玩具〉は“想い出再生機”

——岡本さんはモノづくりがお好きで、大学では橋や線路など社会基盤の設計を勉強していらっしゃいます。モノづくりを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

岡本

小さい頃は科学者になりたいと思っていたんですけど……。

井上

すごいですね。何がきっかけですか?

岡本

宇宙や自然現象に素朴に憧れていたんですが、だんだん人の生活に直接届くようなモノに関心が移ってきて、インフラ系のモノづくりの勉強をするようになりました。いま私が取り組んでいるのは、公共事業の技術が多いのですが、おもちゃも福祉という社会性がありますよね?

井上

そうですね。たとえば岡本さんに影響を与えたと伺った『仮面ライダーオーズ/OOO』は、「昆虫メダルをそろえよう」とか「鳥類のメダルを集めるといいことあるよ」とか、自然に動物図鑑遊びができるしくみになっています。子どもが好きなように遊んでいるうちに「タカ! トラ! バッタ!」を覚えたり(笑)。すべてのライダーがそうではないのですが、「英語を覚えよう」「数字を学ぼう」と子どもに思ってもらえるといいなという裏テーマがあったりします。もともとベースとして『仮面ライダー』は、「孤高のヒーロー」を描いていて、「責任」や「使命」を背負って戦うことがテーマになっています。
バンダイの〈なりきり玩具〉のいいところは、「モノにコトをのっけられる」。公共性やメッセージを作品とシンクロさせることでおもちゃにのせられるんです。

——岡本さんは、ライダーベルトを着けて受験勉強をされていたとのことですが。

岡本

小さい頃から、コスチュームを着たり、ごっこ遊びをしたりすることが好きだったので、その延長でやってました。

井上

それはいいことですね。たとえば『仮面ライダーギーツ』という番組がなかったとして、ギミック玩具として変身ベルトを販売していても魅力は伝わらず売れないと思います。僕たちは〈なりきり玩具〉を“想い出再生機”と呼んでいるのですが、「仮面ライダーがピンチを脱した」「困難を乗り越えた」というシーンを子どもたちは変身ベルトを通じて思い出すから、岡本さんも受験勉強で変身ベルトをまくことで「自分もできる!」と思えたんでしょうね。おもちゃのギミックだけでなく、シーンを思い浮かべられることが価値として乗っかっている。そこを〈なりきり玩具〉では一番大切にしています。

子どもはおもちゃの“正解”を教えてくれない

——バンダイのモノづくりの難しさ、あるいは楽しさはどこにあると思いますか?

井上

一番難しいのは“正解”がないところですね。大人はSNSで「これが欲しい」って教えてくれますが、子どもたちにヒットさせる正解はわからない。ダメだと思ったものがすごく売れたり、絶対間違いないと思ったものが売れなかったり。正解がないだけにおもちゃの企画はとても難しいのですが、ヒット商品を生み出せた時はとても嬉しいし、それがおもしろいところですね。

——他部署や外部の人との軋轢なんかもあるのでは?

井上

もちろんあるんですけど、子どもが答えを教えてくれない中で「子どもにとっておもしろいものを追及する」という想いは誰もが共通して持っています。「バンダイのおもちゃとしては、こうしたい!」「番組制作側としてはストーリー設定的に難しい」ということがよくありますが、目指している目標は一緒なので良い意味でのぶつかり合いだと思っています。

岡本

考えが異なる人と意見がぶつかることもあるけど、ひとつの大きな正義があるからこその楽しさもありますね。

井上

軋轢があったあとに売れた時はたまらないです(笑)。

岡本

別のところでもお話ししたのですが、映像ではメタリックな感じなのに、「おもちゃは金属じゃないんだ」って思ったことがあります。

井上

すごい見てくださっていますね! 『仮面ライダーオーズ/OOO』では、オーメダルのフチは金属でした。

岡本

そうです、そうです。

井上

プラスチックだと子どもが持った時にモノ感が足りないけど、金属にしておくと1個でもズシッとするから、コインと認識できる。もちろんコストはその分高くなってしまうのですが、当時は英断だったと思います。そこが勝負の分かれ目になって、オーメダルの生産数は当時の5円玉の発行数より多かったんですから(笑)。

岡本

スゴイですね!

バンダイに向いているのは感動したことのある人

——バンダイのモノづくりに向いているのはどんな人でしょう?

井上

「こんなものをつくりたい!」っていう情熱を持っている人。自分もおもちゃを買って感動した経験、それこそ岡本さんでいえば『オーズ』のおもちゃを使った経験があることなどがモノづくりをしていく上での根幹になると思います。その経験はバンダイのおもちゃじゃなくてもいい。電車が好きで鉄道の模型を買い集めてましたとか。モノじゃなくてコトでもいいと思います。このイベントに行くのはすごく楽しかったとか。ユーザーとしてのエンターテインメントを楽しむ気持ちがわかっていて、その気持ちを伝えたいっていう人が一番だと思います。

岡本

バンダイさんは歴史のある会社で、いろいろなおもちゃを生んできたわけですが、入社される方はやはりファンが多いのでしょうか?

井上

そういう人もいますね。僕もそうですけど、キャラクターに恩のある人が多い。僕は『SLAM DUNK(スラムダンク)』を見てバスケを始めて人生が変わったので、今度は誰かの人生を変えるキャラクターを生み出して恩返しができたらいいなという想いがあります。キャラクターのファンとまでは言わなくても、そういう経験や想いがある社員は多いんじゃないですかね。

岡本

「クリエイティブ」って表現すると漠然としてしまいますが、いろいろなものを好きな人が集まって、人が好きになれるものをつくっている。何かが好きならそこが居場所になる。クリエイティブって、そういうものなんだとイメージがわきました。

井上

バンダイは泥臭い「クリエイティブ」が多いと思います。ヒット商品を出している人ほど、実は泥臭く情報をとっていたりする。データをたくさん集めていたり、人にたくさん話を聞いたりしている。そういったことを頑張っている人のほうが「クリエイティブ」というイメージです。

岡本

バンダイさんは「エキスパート集団のメーカー」というイメージがあったので、設計担当者さんへのインタビューでも、ひとりがプロトタイプから箱詰めまでを見届けたりする話を聞いて、想像していたよりもずっと「ゼネラリスト集団」だなという印象を受けました。みなさんは何かのマニアでもあると思うんですけど、それでいてすごく視野が広い。いろいろなものを見られるのが楽しい人たちなんだと、前に抱いていたイメージが変わりました。

井上

もちろん、見えないところにはスペシャリストもたくさんいます。電気のことはこの人に相談すれば間違いない、とか。でも、いい意味で自分のポジションを越境して自分の情熱を発信していく人のほうが向いているかもしれませんね。

——本日はありがとうございました。

岡本沙紀 プロフィール

東京大学工学部で橋や線路など社会インフラの設計を学んでいる。国際言語学オリンピックに日本代表として出場し、現在は日本天文学オリンピック代表理事、日本言語学オリンピック委員会理事、コスモプラネタリウム渋谷広報大使を務め、孫正義育英財団、日本宇宙少年団にも所属。大学受験の際、『仮面ライダーオーズ/OOO』の変身ベルトを巻いて勉強していた。

仮面ライダー変身ベルト開発現場に潜入!