バンダイ深掘コラム「夢・創造人」

2019年9月27日

vol.01 仮面ライダーシリーズ 玩具企画人<後編>仮面ライダー」を担当してみたかった―「仮面ライダー」商品企画担当者の過去・現在・未来

バンダイを深掘りする「夢・創造人」。

前回に引き続き「変身ベルト DX飛電ゼロワンドライバー」の担当者・井上光隆に話を聞いた。
今回は「仮面ライダー」の商品企画担当になりたかったという、井上自身にフォーカスしていきたい。

井上は、繊維服飾業界からバンダイに転職している。バンダイのアパレル事業部を経て、当時のボーイズトイ事業部へ移った。「仮面ライダー」シリーズには「仮面ライダーゴースト」の途中から参加。「仮面ライダーエグゼイド」からは企画を立ち上げるところからスタッフとなって4つの新しい作品の担当として商品を手がけている。>>前編はこちら

作り手達と一緒に仕事がしてみたい。
キャラクターの力を信じて探し当てた場所

井上は東京都出身、都心部に実家も学校もあったため、幼少期~学生時代はほぼ都内から出ることなく過ごした。
大学に入り、地方出身者との交流が生まれ「東京以外の場所での生活を体験してみたい」と考え、名古屋の繊維服飾商社に就職したという。

なぜ服飾なのか?
井上は、当時から大人気だった漫画・アニメの「SLAM DUNK」を読んでバスケットボールをはじめ、バスケ漬けの学生生活を過ごした。バスケに没頭した事で人生が変わったと感じており、「SLAM DUNK」という作品の影響力やキャラクターから受ける力の強さを実感していた。
「小学生までは根暗な子どもでしたが、「SLAM DUNK」の影響で中学からバスケを始め、スポーツから学んだ価値観や人間関係など、さまざまなものが自分の糧となりました。それらをもたらしてくれたのは「SLAM DUNK」のおかげです。この時、キャラクターって人生を変えるきっかけにもなるんだなあと実感しました。
もうひとつ、僕は昔からファッションも好きだったのですが、服もまた人に大きな影響を与えると思います。“一張羅”というのは良い気分の時に着る服ですが、服を着るだけで気持ちが変わる。ここにキャラクターの力を融合させてみたい。そう思ったんです」
人生を変えるほどの強さを持つ、キャラクターとファッション。この2つの融合に面白さを感じていた。
井上は、1990年代当時は画期的だった、キャラクターの世界観をファッション取り入れることを方針とした名古屋の繊維服飾商社に魅力を感じ入社した。そこでは主に、ティーンエイジャーに人気のファッションテイストのカットソーの企画・生産を担当していた。

2000年代初頭には、大手服飾企業がキャラクターにフォーカスしたオリジナルTシャツで大きな人気を獲得するなど、漫画やアニメ、ゲームなどのキャラクターをモチーフにした服やアクセサリーが、“大人向け”“ファッション”として世に受け入れられるようになる。井上の感覚はまさにその時代を予見していたのかもしれない。
バンダイでもアパレル商品を展開していることを知った井上は、バンダイに転職し子どもから大人まで、幅広い層に向けた“キャラクターアパレル”で手腕を振るい始める。

井上が最も印象に残っている仕事は、人気レディースブランドと女性にも人気の漫画・アニメ「黒子のバスケ」とのコラボレーション企画。
さて、大人の女性にキャラクターコラボ商品は受け入れられるのか?
結果、「過去最大級の初動売上」をたたき出した。
これを皮切りとして、老舗デパートと「美少女戦士セーラームーン」のコラボなどで大きな結果を出す。
「キャラクターとファッションが生み出す力」を実感した井上は、仕事にのめり込んでいったという。

そんな裏で「仮面ライダー」の子ども服も担当していた。
バンダイでは1つのIPから玩具、菓子、雑貨、アパレルなど多角的に商品展開するため、各事業の担当者が商品化に必要な情報を等しく共有するための全社会議が行われる。井上はこの「仮面ライダー」の全社会議に出席し、当時バンダイの中心スタッフとして「仮面ライダー」企画を担当していた担当者と東映の「作品と一緒にモノを作る姿勢」に触れ、強い衝撃を受けたという。

「それは、僕が経験したことのない仕事の在り方でした。これまで担当したキャラクター商品は、あくまで既存のキャラクターを使用させていただくという形でした。「仮面ライダー」の担当者は、キャラクターを生み出すところから関われるというところに可能性を感じました。そしてその現場には、僕がもっと刺激を受けられる人たちがいると思ったんです」と井上は語った。

異なった才能達を結び合わせて作り出す、
「チームの仕事」の楽しさ

部署異動を希望して4年後、井上ははれて「仮面ライダー」の変身ベルト担当に。 担当してまず驚いたのは、その制作工程と、1つの商品に関わる人の多さだ。井上はこれまでの仕事を「個人商店」、そしてライダーの仕事を「チームプレー」と例える。

Tシャツの場合は、担当者1人で企画・開発して、早いと1カ月ほどで商品が出来上がる。商談も「デザイン」が気に入ってもらえればビジネスは進む。
対して番組と連動している変身ベルトは、制作工程と制作時間が全く違う。
番組制作・玩具制作・パッケージ制作・関連商品展開。例えば玩具だけでも企画だけでなく開発や仕入、プロモーション、営業などの業務との連携が不可欠で、さらに担当者が細分化している。これに加えバンダイのフロントマンとして社内外への交渉や調整も行っていく。
それはとても大きな規模、膨大な業務量で、これまでの仕事と全く異なっていた。
「戸惑ったけど、面白いと思いました」と井上は語った。今まで全く出会っていなかったスペシャリスト達との出会い。全く違う意見や考え方とのふれあい。
実際の仕事は、その想像の枠をはるかに超えるほどの、期待通りの新しい仕事だった。
玩具のギミック(仕掛け)文化、販売戦略、子ども達に向けたアプローチ、発売時期、情報露出のタイミング……全く知らなかったものに日々出会う「なんだこの世界」というのが、井上の感想だ。

「DX飛電ゼロワンドライバー」のパッケージ。ヒーロー、ベルト、文字、全てのレイアウト、カメラアングルには、細かい計算と技術の蓄積がある。例えば変身ベルトの「パッケージデザイン」。パッケージのライダーの位置、ベルトの位置、文字の位置、そこは数ミリ動くだけで意味が違う。

ここで改めて井上が手がけたベルトを並べてもらった。まさに「壮観」といえる景色だ。
1から担当したベルトは、ゲーマドライバーから最新の飛電ゼロワンドライバーまでの4つ。改めて奇抜で、面白いデザインだ。
「これらのベルトで自身のアイディアが活きている部分は?」という質問に「あくまで関わっている皆で考えて実現している」と答えた。誰か1人の意見やアイディアではなく、皆で考え、皆でアイディアを出し、話し合って仕様やデザインが決まっていくという。
そこもまた「SLAM DUNK」の影響かもしれないと井上は語る。
「チームで成し遂げることに達成感があるし、みんなで良い結果を共有して騒げるのは、とても幸せな瞬間です。」

今後チャレンジしたいことを問うと、「仮面ライダーは、1年ごとに新しい作品を発表しています。玩具もまた、それに合わせて1年単位で展開しているけれども、そのスパンをもっと長くしていきたい。」という想いを語った。
配信などの環境で過去作品が観られるようになり、仮面ライダーが親と子、世代を超えたファンを獲得している中、もっと何かができるのではないか?と井上は考えている。
大人向けライダーベルト「COMPLETE SELECTION MODIFICATION」はそういった流れを受けて人気が拡大している商品だ。仮面ライダーの歴史にはまだまだポテンシャルがあると感じている。

「COMPLETE SELECTION MODIFICATION」は、過去の仮面ライダーシリーズの変身玩具を最新の技術・造型手法を用いて再構築した、「大人の為」の「なりきり」玩具シリーズである。

子ども達の笑顔が原動力、
折れずに突き進む「エゴ」の大事さ

井上の中で育ちつつある想いが、「仮面ライダー」のように、玩具文化を形成するキャラクターを1から作り出したいということだという。子ども向け、大人向けを問わず、自分の根っことなるような、オリジナルキャラクターを生み出したいと思っている。
「何か軸が欲しい」そういう想いをずっと抱えている。

井上が社会人になって一番感動した体験は、「テーマパークでデートをしている子が、自分が初めて作った服を着てくれていた瞬間」だという。誰かは知らないし、たまたま目にしただけだが、自分の服を大事な瞬間に着てくれたこと。その姿は井上に今でも力を与え続けている。

井上は変身ベルトの発売日も、チームでさまざまな店舗にリサーチに行く。
「商品は世に出すまで、苦労や不安でとても辛いんですけれども、子どもたちが商品を手にしたときの表情で全て報われます。企画段階ではもうこんな思いはしたくないと思う事もありますが、発売してユーザーの声を聞くと、さて次は何やってやろうか?と思う(笑)。土曜日と(番組が放映された)日曜日では、子ども達の顔の表情がはっきり違います。ポーズもマネしてくれていたりする。放送でヒーローの姿を知ると、ベルトがより魅力的になる。ここにキャラクターの力を実感します」と井上は語った。

「きちんと目標を持つ」、「チームへの感謝」、そして「程よいエゴを持つ」。井上が大事にしていることだという。
玩具企画職で大切にしていることとして、井上は「ひとつはきちんと目標を持つこと、もう1つは感謝」だと語った。目標を定めてそれに向かって、チームとして取り組んでいくこと。そして周囲のスペシャリストの才能を掛け合わせることで商品は生まれている。
さらに「エゴ」も大事だと付け加える。「よくわからないけどかっこいい英語音声でいく」、「ビルドのボトルを振る楽しさに賭ける」など、周囲の声に負けず、自分が信じた思いを押し通す強さを持つこと。「変えちゃっていたら、良くても悪くても後悔すると思うんです。なのでほどよく自己中であれ、というのは大事だと思います。周囲の声に折れてばかりだと『結局、自分はいらないんじゃないか』となってしまう。そうじゃないと思うんです」と井上は語った。

企画を実現するにはいくつもの関門がある。その関門は時には自分を変えなくてはならないほど強いこともある。しかし、何が消費者に受け入れられるかは、世に出るまでは誰もわからない。誰もわからない中、自分の意思を見せられるか、信念を持てるかが重要だと井上は感じている。

©2019 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

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