バンダイ深掘コラム「夢・創造人」

2019年12月13日

Vol.03 脳科学玩具企画人<後編>~「親初心者」実体験から生まれる商品~

「ベビラボ(Babylabo)」を担当するトイ事業カンパニー、カテゴリーデザイン部の奥村優。今回は奥村自身のベビラボ担当者まで至る経緯や、商品に込めた思いにフォーカスしたい。>>前編はこちら

「自分の子どもが喜ぶ商品を作りたい」
現在の奥村の根底には、この思いがある。奥村の子どもはすでに5歳だが、赤ちゃん時代にあったら良かったと思えるような商品を作りたいのだという。
「子どもを授かってから考え方が大きく変わった」という奥村。以前とどう変わり、今はどんな考えで商品を企画し、そして今後は。

トイ事業カンパニー カテゴリーデザイン部 奥村優

親になったことで劇的に変わった価値観

「好きこそものの上手なれ」奥村が“座右の銘”としている言葉だ。就職活動では玩具メーカーをはじめ、広告代理店、食品メーカー、人材派遣など、「自分の好きなもの、興味のあるもの」に焦点を絞り業界を選んだ。その中から玩具やキャラクターの企画・デザイン制作・開発・生産を行うウィズ(2016年 バンダイの子会社に。現プレックス)に入社した。ウィズは「たまごっち」や「デジタルモンスター(以下、デジモン)」を手掛けており、奥村は、子どもの頃から「デジモン」が大好きだったため入社を決めたそうだ。

ウィズでは、ウィズオリジナル商品の営業担当に。子どもの頃に夢中になった“好きなモノ”が仕事になった。
社会に出て4年が経ったころ、奥村は結婚と転職という、2つの大きな転機を迎える。「結婚を機に、より広いフィールドで、よりスケールの大きな仕事がしたくなった」ことから、バンダイの門を叩く。
玩具営業の経験が買われ、カード事業部の営業担当として入社した。
「大貝獣物語 ザ・ミラクルオブザゾーン」などカードゲームは小学生の頃夢中になって遊んだ、好きな物の一つなのだそうだ。

望んでいた場所で、望んでいた“自分が好きなモノを提供する”仕事に没頭していたはずの奥村は2年後、意外な異動先を希望した。幼児向け玩具を扱う「プレイトイ事業部」(現カテゴリーデザイン部)だ。

この時期、奥村は“親”になっていた。子を授かったのだ。
初めて自分の子どもが生まれて親になった瞬間、子どもは宝物のような存在で、何よりも大事なものであることを実感した。少しずつ成長していく姿や、ほかの子と比べて我が子が今できること、まだできないこと。些細な事で喜んだり、心配したり、全てが新鮮だった。

「初めて、親自身も親初心者なのだということを痛感しました。全てが手探り状態で。子どもが生まれてから、親は初めて乳児玩具の売場に行くわけです。私自身も実際に体感しましたが、無数の商品の中から何を買ってあげればいいのか、本当に分からないんですよ。
でも我が子のために少しでも喜んでくれるものを与えてあげたいと思うんです。この経験から「これならうちの子喜ぶかな」、「これなら安全だ」と親にわかりやすくて、赤ちゃんがちゃんと喜んでくれるものとして選んでいただける玩具を作りたいと思うようになりました。」

子の誕生をきっかけに奥村の仕事の原動力が、「自分が好きなモノ」から「子どもが喜んでくれるもの」へと変化し始めていった。

「誰にでも “叶えたいもの”ってあると思うんです。私は、子どもが生まれてからは「自分の子どもが本当に喜んでくれる商品を作りたい」というのが、その1つであると自覚しました。そして、私の当時の環境で一番その思いを叶えられるところがプレイトイ事業部であり、「ベビラボ」だったんです。」

プレイトイ事業部では、1年半仕入れ業務を担当した後、前任とバトンタッチする形で念願の商品企画担当となった。

自身の子どもを授かった経験から、仕事との向き合いが大きく変化していった

こだわりぬいた商品に脳科学という“裏付け”

新米の父親としての実体験があるからこそ、「ベビラボ」は “親を喜ばせる”という要素にも力を入れている。例えば、奥村が企画した商品に「~脳を育む~おでかけ布えほん」がある。

「~脳を育む~おでかけ布えほん」
この商品にも無論、脳科学の知見に基づいた特長的な模様を取り入れている
※縞模様や網目模様など、一見サイケデリックな模様。赤ちゃんが最初期に認識できるパターン。

持ち運びしやすい布製の絵本で、ベビーカーでの使用を想定した商品だ。ベビーカー内の赤ちゃんは進行方向を向いており、ベビーカーを押す保護者とはコミュニケーションがとれない。そんな赤ちゃんが、ひとりでも楽しめる絵本という役割を持たせた。
表情豊かなアンパンマンのなかまたちの顔が描かれている。柔らかい感触だけではなくパリパリとした音と感触も楽しめる「パリパリシート」を仕込んでいるページ。タンバリンの絵が描いてある部分を叩くと鈴が鳴り、実際のタンバリンのように楽しめるページ。お出かけ中の赤ちゃんを飽きさせないための工夫が随所に見られる。
そして注目は、「わくわく」や「にこにこ」など、大きく描いた擬態語だ。
「絵本に文字がないと、親が絵から物語や台詞を汲み取って想像して、赤ちゃんに説明する必要があるんです。でも、細かく物語のように文字を入れても赤ちゃんはまだ理解できない。そこで「にこにこ」というような簡単な擬態語をいれています。これだけでも親は赤ちゃんへうんと説明しやすくなるんですよ。」
親も赤ちゃんも読みやすいという工夫なのだ。
「赤ちゃんのためだけでなく、その親御さんのためにもこだわりぬいて作った商品に、さらに脳科学もプラスされている。これがベビラボなんです」
と奥村は語った。

ベビラボと奥村の“叶えたいもの”

奥村は今後も「幼児向け」にこだわっていきたいという。子どもが生まれたことで変化した価値観、得られた視点。これらを大切に、自分の子どもが遊んで楽しい=子どもたちが楽しい商品を企画していきたいとのこと。

「ベビラボ」を今後さらに発展させて世に広めていくためには、脳科学実験から得られる “知見”をもっと蓄積していく必要があるという。
実験のテーマにはさまざまなものがある。最近話したテーマは「感触」だそうで、赤ちゃんが好み、気持いいと感じる感触はどのようなものか、それを確認するためにはどんな検証が必要となるのか?「赤ちゃんが好む光り方」の場合は?脳科学の検証を担当するNeUのメンバーとこのような打合せを毎回2時間以上、行っている。
また、実験の段階においてもうまく効果が得られないことももちろんあるし、面白い結果が得られたとしても、商品への反映がうまくいかない場合もある。知見をどう商品と結びつけていくかもまた、難しいところなのだそうだ。
さらに、知見を得てから商品開発に取り掛かるため、通常の商品よりもスケジュールの管理が難しい。
「赤ちゃんにとっても、親にとってもまず魅力的な商品でなければいけない。」
どれだけの手間と労力、時間を費やしたのだとしても、魅力的な商品に、さらに脳科学の裏付けがある。それが成立したときに初めて「ベビラボ」が誕生する。“叶えたいもの”はここにあるのだと奥村は語った。

ベビラボシリーズ
https://anpanman.bandai.co.jp/products/specials/babylabo/

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