バンダイ深掘コラム「夢・創造人」

2020年3月27日

Vol.07 おもちゃのまちバンダイミュージアム<前編>~栃木県壬生町に世界中のあそびの歴史在り~

今回は、おもちゃのまちバンダイミュージアムを取り上げる。ミュージアムの特徴、そして4月中旬予定のリニューアルでより鮮明となる本ミュージアムのテーマ。さらにはこの地域がなぜ“おもちゃのまち”と呼ばれることになったかを取り上げていきたい。

おもちゃのまちバンダイミュージアムとは、栃木県下都賀郡(しもつがぐん)壬生町(みぶまち)おもちゃのまちにあるミュージアムだ。日本国内外の歴史的玩具から、昭和、平成の玩具、ゲーム機など3万5千点を超える玩具が集まる。さらにガンプラを中心としたホビーや発明王・エジソンのコレクションも取りそろえている。子どもたちはもちろん、大人も楽しめる博物館だ。

館長の鈴木(すずき)(まさる)と、前館長であり、現在は顧問を務める金井(かない)正雄(まさお)に話を聞いた。>>後編はこちら

(左から)館長・鈴木勝、顧問・金井正雄

おもちゃのまちの誕生と今

1950年代、墨田区一帯にあった玩具工場は移転先を必要としていた。時代は高度経済成長期、地価が高騰し玩具工場の拡張が難しくなった上に、水害の危険性や公害問題も指摘されていた。
一時はとある地域が候補に挙がるが難航、戦前に大きな飛行場の跡地があった栃木県下都賀郡壬生町が名乗り出る。地域全体が誘致に積極的で、東武鉄道は工場地帯のための駅を作るという約束まで申し出た。「夢のある町にしたい」という想いでこの一帯は“おもちゃのまち”として命名された。

町の建物や幼稚園などにも名前の冠に「おもちゃのまち」の名前がついている。余談だが、この町で生まれ育った鈴木は出身地を聞かれ「おもちゃのまち」と答えても、周りには冗談だと思われ、なかなか信じてもらえなかったそうだ。

館長の鈴木はおもちゃのまちで生まれ育った

おもちゃのまちはその名のとおり玩具メーカーの工場が建ち並ぶ、“玩具が生まれる場所”となった。内職も盛んであり、町の人々は工場に勤務するだけでなく、内職でも玩具の部品の組み立てなどをしていたという。玩具のヒットで工場の生産が追いつかず、家族全員、町全体で協力して玩具を組み上げることもあった。全町民が玩具工場の関係者であり、玩具工場が地域の繋がりを生んでいた。鈴木は「一山一家」という炭鉱の町で語られた言葉を引用し、「工場は住民達を支え、住民達は工場で何か困ったときには助ける。玩具工場は町の“家”であり、住民は家族でした」と当時を振り返った。

しかし、1990年代後半から玩具の生産拠点が海外に移り始める。玩具メーカー、部品工場などの関連工場も徐々に引っ越していき、現在はこの地域で活動しているメーカーは、決して多くはない。

おもちゃのまち
バンダイミュージアムの設立

おもちゃのまちバンダイミュージアムが生まれたのは2007年4月。元々は玩具の研究開発のための建物だった。周り一面をガラスで覆った未来的なデザインの建物で、隣には金型の工場もあった。各社生産拠点を海外にシフトしていく流れのなか、研究開発部門も東京に移り、建物だけが残った。しかし、残された建物を活用し、この土地に根付いた「おもちゃ」を絶やすことなく発信し続けるため、「子どもから大人までみんなが楽しめる博物館」をコンセプトとしたおもちゃのまちバンダイミュージアムとして生まれ変わったのだ。

おもちゃのまちバンダイミュージアム外観

実は近くに「壬生町おもちゃ博物館」という世界各地、新旧の玩具を集めた博物館がある。バンダイミュージアムは、どのように差別化を図るのか。

本施設の目玉として1/1スケールのガンダムの上半身の立像を設置することに。これは2006年に閉館した千葉県松戸市にあった同名の施設「バンダイミュージアム」に設置されていたものだ。
さらに2003年から2006年まで軽井沢にあった、世界中の玩具を展示した「バンダイワールドトイ軽井沢ミュージアム」から受け継いだコレクションを展示する「ワールドトイミュージアム」、そしてバンダイが所蔵するトーマス・エジソンのさまざまな発明品を展示する「エジソンミュージアム」を加えて、それぞれゾーニングを行うことにした。他所にはない、バンダイが有するリソースを集約し活用しながら、おもちゃのまちバンダイミュージアムはスタートすることとなった。

エントランスで待ち構える「1/1原寸大ガンダム胸像」

より子どもと大人が触れあえる
空間を目指して

こうして生まれたおもちゃのまちバンダイミュージアムは、3万5千点を超える玩具が集まっている。歴史的にも非常に価値があり、「時代」を感じさせるものがギッシリと並ぶ。
その中でも2万点を超える日本の玩具の中から厳選された約7,000点を展示している「ジャパントイミュージアム」は、昭和30年代のブリキのおもちゃから、数年前の比較的新しい玩具も多数展示されており、小さい子でも「自分が遊んでいた玩具」に出会うことができる。超合金、スーパー戦隊、仮面ライダーなどの商品や、美少女戦士セーラームーンやプリキュアといった女児玩具も数多く展示されている。バンダイの玩具だけでなく、これまで発売された各社の玩具が集まっており、日本の玩具の歴史を深く掘り下げたものとなっている。

超合金シリーズが所狭しと並ぶ

玩具から感じるものは“懐かしさ”だけではない。昔の玩具はこんな形をしていたのか、こんなキャラクターがいたのか、こんな玩具があったのか……さまざまな驚きをもたらす。
「ジャパントイミュージアム」は、「誰でも楽しく玩具に触れあえる」をコンセプトにしており、親子、さらには孫がお祖父母と来ても、玩具を見ながら、さまざまな会話が生まれるだろう。より近くで玩具を見て欲しいという想いのもと、なかには直接触れたり、ガラスケースに入っていない展示物もある。

直接商品を見ることができるコーナーも

バンダイミュージアムは春に向けて改装を行っている。「ジャパントイミュージアム」では、これまで年表のように年代軸の展示構成だったが、あえてシャッフルさせたという。例えばブリキのおもちゃの横に電子ゲームの展示があったり、仮面ライダーやウルトラマンなどヒーロー系カテゴリーでまとめられている。キャラクターを中心としたコーナー作りや、時代のシャッフルを行うことで、大人と子どもが同じゾーンで足を止める。ウルトラマンや仮面ライダー、プリキュアなど世代を超えて楽しまれているシリーズは、歴代のシリーズをその場所で一気に見られるようにすることで、親子の会話が生まれやすくなるよう工夫しているという。これまで子どもと大人が別々の場所で足を止めていたことに対する新たな試みだ。

「男の子のおもちゃとキャラクターヒーローたち」の
コーナー。
過去作から直近の商品まで
まとめてみることができる。

各コーナーにはスタッフの想いやこだわりが詰め込まれており、ぜひ注目して欲しいと鈴木は語った。再び余談だが、金井は多くの来場者が来る中で「この玩具で遊んでた」と足を止めるのは大体6~7歳のころの玩具だという。そのため足を止めたところでその人の年齢がわかるとのこと。リニューアル後の展示で、自分が知らない世代の玩具にも触れて欲しい、出会って欲しいという想いを込めているとのことだ。

リニューアルに向けて
展示商品を組み立てるスタッフたち

もう1つ、大きなリニューアルポイントとして「『機動戦士ガンダム』関連のオブジェクトの展示の追加」があると鈴木は明らかにした。約2mの立像や、実際にすわれるコクピットなどを準備する。「クラッシュガンダムヘッド」など、過去に実施したGUNDAM EXPOなどのイベントで展示されたオブジェクトなども展示するという。子どもはもちろん、ガンダムファンにも楽しめる展示となりそうだ。

玩具でたっぷり遊べる
「プレイエリア」、
目玉はTVゲーム?

館内の中心部にあたる場所には、子どもがおもちゃで思いっきり遊べる広い「プレイエリア」がある。なりきり玩具や、ブロック玩具などが箱にギッシリ詰め込まれている。子どもたちはその箱をガチャッとひっくり返し、お気に入りの玩具を探す。
大人は、展示の前で足を止めいつまでも思い出に浸っていたくなる。しかし子どもたちは、展示を眺めるだけではなく、やはり「触りたい!遊びたい!」なのだ。

室内のプレイエリアにはおもちゃ箱を設置している

プレイエリアは芝生の敷かれた広い中庭に繋がっている。プラスチック製のバットやゴムボールなど屋外スポーツ用の玩具もあり、中庭で駆け回ったり、ボール遊びを楽しむこともできる。

芝生の中庭は広く開放感がある

もう一つ、プレイエリアには目玉コンテンツがある。「パックマン」や「スカイキッド」など、バンダイナムコグループの過去のアーケードゲームをファミコンで遊ぶことができるスペースを設けているのだ。実はバンダイミュージアムのなかでも特に人気があるそうで、ひたすらゲームに夢中になる親子も少なくないという。
「親世代のレトロなゲームを、説明書も見ず、すぐに楽しむことができる子どもたちの姿が衝撃的だった」と金井は言う。TVゲーム文化が生まれる前からあった子どもは、自分のボタン操作でキャラクターが動くという感覚を生まれ持っている。だからこそシンプルで普遍的なレトロゲームをすぐに受け入れ楽しむことができるのだ。

ファミコンソフトの貸出一覧表

金井が創り上げ、現在は顧問として見守るミュージアムを、鈴木は想いを受け継ぎながら運営していく。なかでも最も大切にしていることは「子どもたち」、「親たち」、「祖父母たち」の3世代がきちんと楽しめる施設であること。さらにバリアフリーを目指してより幅広い人々に、玩具の楽しさ、玩具を作ってきた歴史、日本の文化と技術を「おもちゃのまちバンダイミュージアム」で伝えていくことだという。

今回の展示のリニューアルは金井から受け継ぎ、学んだものを込めているという。玩具への思い入れも持ちながら、より楽しんでもらうミュージアムを目指していくと鈴木は語った。

「おもちゃのまちバンダイミュージアムは4つのテーマミュージアムと室内外で楽しめるプレイエリアを備えた、子どもから大人まで誰でも楽しめる場所です。ぜひ一度、遊びに来て下さい」最後に読者に向かって鈴木はこう語りかけた。後編では「バンダイの生き字引」と呼ばれる金井に焦点をあてながら、彼が熱心に取り組む「エジソンミュージアム」にフォーカスしていく。

©創通・サンライズ

おもちゃのまち バンダイミュージアム
https://www.bandai-museum.jp/
※「おもちゃのまち バンダイミュージアム」の現在の開館状況については、公式サイトをご確認ください。

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